二人のガスコン

佐藤賢一の小説。
佐藤賢一は、「傭兵ピエール」と「ジャガーになった男」しかまだ出てなかった頃に読んで、
すっかりそれっきり忘れてた作家。
(ちなみに、傭兵ピエールは今マンガになってどっかで連載されてる)
実はその後「王妃の離婚」で直木賞を取ってたというのをつい最近知った、
てか「王妃の離婚」が直木賞作品なのは知ってたのに、
作者が佐藤賢一だったのを知らなかったという(笑)
主な作品は西洋歴史小説。
日本人では割と珍しいタイプかなぁ? と思ったんだけど、
なんでも、東北大学で西洋史の修士号を取ってるんだそうで。
経歴を知ると、納得できる。
多いのは中世フランスだけど、「剣闘士スパルタクス」とか「カエサルを撃て」なんかの
古代ローマモノも書いてたりする。。
自分が買って手元に置いてるのは「王妃の離婚」「双頭の鷲」そしてこの「二人のガスコン」。
「傭兵ピエール」「ジャガーになった男」は古本屋にうっぱらった(笑)
まあ、他の作品はとりあえずどーでもよくて。
とにかく、「二人のガスコン」の話。




二人のガスコン(上・中・下)
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ガスコン=ガスコーニュ地方、ガスコン人のこと。
そして、有名なガスコン人といったらなんと言ってもダルタニャン。
そう、二人のガスコンの片割れは、アレクサンドル・デュマの「ダルタニャン物語」の主人公、ダルタニャンなのだね。
そしてもう片方は…
こっちも不朽の名作「シラノ・ド・ベルジュラック」の主人公、
でっかいお鼻ガトレードマークのシラノ・ド・ベルジュラック。
実はシラノがガスコン人っていうのは・・・ラストにちょっとだけ仕掛けがあったりする。
ま、この言葉で察しておくれ。

「俺はガスコンにあこがれていたんだ」

この二人のガスコン(?)人がフランス宮廷の権力闘争(マザラン&大后妃vsオルレアン公)にまきこまれて、
恋あり、剣戟あり、陰謀あり、な物語なんだけど。
ルイ十四世の出生の秘密だの鉄仮面だの、もうダルタニャン物語のエッセンスてんこもり。
ちょうど時代的にはダルタニャン物語の2巻と3巻の間だから、
「三銃士」と「ニ十年後」の間のミッシング・リンクな感じでとっても面白い。
また、佐藤賢一がダルタニャンとシラノをとっても生き生きと描いてて、
まさに歴史冒険活劇ってな感じですごくイイ!
登場人物にも、思わずニヤリとしたくなるような人が大量に出てくるし、
ダルタニャンファンは必読の一冊かも。
 #但し、アトス・ポルトス・アラミスは名前だけしか出てこない(笑)
ちなみに、シラノ的には、既にロクサーヌは修道院に篭ってて、
シラノが毎週土曜日に世間のニュースを法螺を織り交ぜながら語ってるくらいの頃。
無頼漢を装ってるくせに純情男で、なかなかかわいらしかったよ(笑)
 #イメージ的には日本の傾奇者っぽいな>シラノ
ロクサーヌ嬢は…天然ボケなのか、わかっててやってるのかよくわからなかった(笑)
ダルタニャンもシラノも、そして悪役になりがちなマザランでさえ。
熱い血の男として描かれてる。

−ガスコンだ。
これほどの熱血漢は、ガスコンでしかありえない。
いったん心が灼熱の温度で燃えたてば、あとは炎が我が身を焼き尽くすまで、
とことん走り続けるしかない。
そうした生き方ができる男はガスコンだ。
アンリ大王の正統な息子だ。
(下巻P293〜294)

ああ、猪突猛進の熱血漢だ。
ああ、最高の益荒男だ。
天下のシラノ・ドゥ・ベルジュラックも、またアンリ大王の子供なのだ。
でなければ、かように一途な心意気を貫けるわけがない。
(下巻P373)

ここの部分を読むと、この物語はただの冒険活劇じゃなくて、
ガスコン人への賛歌なんじゃないか、とも思える。
この文章、なんか、好き。
ストーリーはネタバレしないために割愛。
でも、とにかく面白くて、ダルタニャン物語を読み直したくなっちゃった。
 #といっても第三部の「ブラジュロンヌ子爵」だけは大嫌いだが
 #個人的には、第二部まででやめときゃよかったのになー、と思う・・・
ミッシング・リンクって微妙にスキマ産業(^^;)みたいな気もしないでもないが・・・
ま、私は面白ければなんでもいいのだ(笑)
てことで、ダルタニャン好きのそこのアナタ、是非読んでみておくれ。